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大阪地方裁判所 昭和49年(ワ)5077号 判決 1978年5月29日

甲事件原告・乙事件被告(以下単に原告という) 山口一之

<ほか一七名>

原告ら訴訟代理人弁護士 松本津紀雄

千場茂勝

竹中敏彦

甲事件被告・乙、丙事件原告(以下単に被告という) 株式会社ピロビタン総本社

代表者代表取締役 芳陵平八郎

甲事件被告(以下単に被告という) 芳陵平八郎

被告ら訴訟代理人弁護士 高澤嘉昭

被告ら訴訟復代理人弁護士 吉田孝夫

主文

一  甲事件について

(一)  被告株式会社ピロビタン総本社、同芳陵平八郎は各自、原告らに対し、別表(一)の認容損害合計額欄記載の各金員と、これらに対する同表の遅延損害金起算日欄記載の日から各支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

(二)  原告らのその余の請求を棄却する。

二  乙事件について

(一)  被告株式会社ピロビタン総本社に対し、原告板井敏子は金一七万二、八一四円、同宮崎雅尚は金五六〇万九、三〇〇円と、これらに対する昭和四九年六月八日から各支払いずみまで年六分の割合による金員を支払え。

(二)  同被告の同原告らに対するその余の請求と原告山口一之に対する請求を棄却する。

三  丙事件について

被告株式会社ピロビタン総本社の原告佐伯金雄に対する請求を棄却する。

四  訴訟費用中、原告宮崎雅尚と被告らとの間に生じた分は三分し、その二を同原告の、その一を被告らの各負担とし、その余の原告らと被告らとの間に生じた分は被告らの負担とする。

五  この判決は、第一項(一)の部分にかぎり仮に執行することができ、被告らは共同して各原告らに対し別表(一)の仮執行免脱担保金額欄記載の各金員の担保を供して仮執行を免れることができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

(甲事件関係)

一  原告ら

被告らは各自原告らに対し、別表(二)の請求損害合計額欄記載の各金員と、これらに対する別表(一)の遅延損害金起算日欄記載の日から各支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決と仮執行宣言。

二  被告ら

原告らの請求を棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

との判決。

(乙事件関係)

一  被告会社

被告会社に対し、原告山口一之は金八四万五、〇〇〇円、同板井敏子は金一三四万七、八一四円、同宮崎雅尚は金七四五万九、三〇〇円と、これらに対する昭和四九年六月八日から各支払いずみまで年六分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は同原告らの負担とする。

との判決と仮執行宣言。

二  原告山口一之、同板井敏子、同宮崎雅尚

被告会社の請求を棄却する。

訴訟費用は被告会社の負担とする。

との判決。

(丙事件関係)

一  被告会社

原告佐伯金雄は被告会社に対し、金二〇〇万円と、これに対する昭和四九年八月七日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は同原告の負担とする。

との判決と仮執行宣言。

二  原告佐伯金雄

被告会社の請求を棄却する。

訴訟費用は被告会社の負担とする。

との判決。

第二当事者の事実上の主張

(甲事件関係)

一  本件請求の原因事実

(一) 被告会社は、乳酸菌飲料ピロビタンの商標権の使用を認めることによりその対価を受けること、金融などを業とし、被告芳陵平八郎は、被告会社の代表取締役であって、訴外日本企業開発株式会社(以下日本企業開発という)などピロビタン関連会社を含めて最高の指揮監督責任者としての地位にあった。

原告らは、いずれも、被告会社と後記のピロビタン営業所契約を締結し、ピロビタン営業所長の地位にあったものである。

(二) 被告らの原告らに対する不法行為

(1) 原告らは、それぞれ別表(二)の本契約年月日欄記載の日に被告会社と「営業所契約」を締結した。この契約は原告らがそれぞれ被告会社からその営業地域におけるピロビタンの独占販売権の設定を受け、同表の権利金支払いによる損害欄記載の金額の各地区権利金を被告会社に支払うことを内容とするものであり、原告らは前記本契約締結の日までに右各金員を被告会社に支払った(但し7番の原告佐伯金雄は金三〇〇万円を支払ったが、後に金二〇〇万円の返還を受けたので、同欄には一〇〇万円と記載)。

《以下事実省略》

理由

第一甲事件についての判断

一  本件請求の原因事実(一)の事実及び原告らはそれぞれ、その主張の日に被告会社と本件営業所契約を締結し、その主張の金員(ただし原告佐伯金雄同竹口稔の支払金額はのぞく)を支払ったことは当事者間に争いがない。

二  被告らの営業活動の実態について

(一)  《証拠省略》を総合すると、次の事実を認めることができ(る。)《証拠判断省略》

(1) 被告芳陵平八郎は、昭和四一年九月二七日訴外株式会社ピロビタン本社(以下ピロビタン本社という)を設立し乳酸菌飲料ピロビタンの製造販売を開始したが、その後その販売網の開発を別企業とするため昭和四四年二月一三日日本企業開発を設立した。同被告はピロビタン本社にピロビタンの製造販売のみを行なわせるため、昭和四五年七月一六日被告会社を設立し、被告会社にはボトリング工場、営業所との契約関係業務をさせた。しかし、同年秋以降ピロビタン本社の社会的信用が低下したので、被告芳陵平八郎は、そのころ訴外ピロビタン製造株式会社(以下ピロビタン製造という、昭和五一年ころジャパンフーズ株式会社と商号変更)を設立し、ピロビタン本社のピロビタンの原液の製造販売の業務をこれに移した。他に訴外ピロビタン商事株式会社、同株式会社ピロ企画などの会社も設立された。これらピロビタン関連企業のうち、被告会社、日本企業開発、ピロビタン製造が一体となってピロビタンの宣伝、普及、販売及びピロビタンの各ボトリング工場、営業所、専売店の開発組織化を行ない、このボトリング工場、営業所、専売店とともにピロビタングループを形成している。しかしそのうち被告会社、日本企業開発は前記のとおりそれぞれ別個の法人格を持ち、業務内容も建前としては別個になっているものの、同じ建物を事務所として用い、役員と従業員も両社に共通している者が多く、実質的には重なり合って仕事をしていた。

なお、被告芳陵平八郎は、被告会社設立当初から代表取締役である一方、日本企業開発の取締役でもあり、他のピロビタン関連会社を含めて最高指揮監督責任者としての地位にある者で、後記訴外峰修は昭和四六年八月から昭和五〇年三月まで日本企業開発の代表取締役であり、同時にそのころ被告会社の役員(専務取締役など)でもあった者で、ボトリング工場、営業所との仮契約及び本契約については、同被告とともに中心的役割を果した。

(2) ピロビタングループの具体的な組織構成は、頂点に被告会社、その下に日本企業開発、ピロビタン製造など関連企業が置かれている。そしてピロビタン製造が製造した原液を薄めて瓶詰にするボトリング工場を人口一〇〇万人を単位に一個所、その下にこれを販売する営業所を人口六万人または三万人を単位に一個所、更にその下に各家庭に配達する専売店を人口五、〇〇〇人を単位に一個所それぞれ設けるというものである。このボトリング工場、営業所、専売店についてはいずれもフランチャイズ制、すなわち「特色のある商品(ピロビタン)のサービス販売テクニックを開発した企業(被告会社)がフランチャイザーとなってフランチャイジー(各ボトリング工場、営業所等)に対して地域独占営業権を与え、フランチャイジーはこれによって独立して営業を行なうが、その営業にあたってはフランチャイズ・チェーンとしての同一性を守るための指定の条件内で営業をしなければならない。」というシステムをとり、被告会社との契約(営業所契約)でその営業権を取得するにあたって権利金(ロイヤリティ、契約金ともいう)を支払わせることにしていた。

(3) この権利金は、被告らがフランチャイジーに説明していたところによると、一定地域のピロビタン独占営業権、被告会社から継続的に営業指導を受ける権利、商品前渡しを受ける権利、増本奨励金を受ける権利を総合したものの対価であるということであった。そして被告会社設立後約五年間に被告会社に入った右権利金の総収入額は数十億円にのぼっていたと推定されるが、その使途については、四分の一が後記開発手数料として右契約希望者の紹介者に支払われ、相当部分がピロビタンの宣伝費用として使われたほかは明確にされていない。

(4) 被告らが原告らと契約を締結した昭和四七年ころ以降営業所契約者を募集するに当って行なっていた方法は、ボトリング経営者、営業所長などをして、後記事業説明会を開催したり個別的に説得させたりして直接勧誘の衝にあたらせ、被告ら及び日本企業開発は講師の派遣、PR映画等の説明資料の交付、名義貸し、従業員による援助等間接的な役割をする場合が多かった。しかしその場合も被告会社あるいは日本企業開発の名前で、同会社らの作成した説明プログラム、資料に基づいて勧誘がなされることが殆どであったから、被告ら及び日本企業開発は、実質的には、多額の開発手数料を支払う反面ボトリング経営者及び営業所長を手足として自ら勧誘を行なっていたといえる。

勧誘の具体的な方法は、被告らが企画立案した全国的に画一化したパターンで行なっていたもので、その内容は次のとおりであった(事業説明会等を行なわない場合も、その「説明」の大要に相違はない)。

(イ) チラシの配布

まず、各地で広く読まれている新聞の折込広告のチラシで事業説明会を開催する旨の宣伝をする。チラシには事業説明会の主催者が日本企業開発である旨明記するが、ピロビタンの名を出せばピロビタンの営業所の募集であることがあらわになり人が集まらないから、ピロビタンに関する記載は全く入れず、新事業の紹介という体裁をとる。標題は「将来性ある確実に儲かる新事業の説明会」というのが多く、その内容として「短期間で数十億円の資産を築いた話題の青年社長芳陵平八郎の商法を公開」「利益、例えば資金四〇万円で、三か月ないし六か月後月収一五万円以上、一年後月収二〇万円以上、将来この数倍の利得が得られます。」などと具体的な利益に関する金額まで記載して少ない資金で大きな利益が得られることを強調し、説明会場としては各地の一流ホテル、公共施設が記載されている。このチラシを読んだ者の中には、経営コンサルタントの会社による説明会であるかのように錯覚した者が多い。

(ロ) 事業説明会

説明会会場の受付には資力、現住所略図などの記載欄がある説明会出席者芳名表が備えてあり、出席者はこれに記入することが求められる。これは被告ら、日本企業開発及び説明会の準備をした各営業所長らの今後の勧誘活動の資料になる。

事業説明会には、被告芳陵平八郎、日本企業開発の次長訴外松下梅次郎、営業部長の同八谷暉が出席することが多く、他に被告会社あるいは日本企業開発の本社、支社から従業員が一、二名出るほか、ボトリング経営者、営業所長が数名参加している。

まず、右従業員や松下、八谷など前説明担当者が金融情勢、フランチャイズ・システムの一般的な解説をし、成功した事業の具体例を紹介して経営者としての必要条件等を説明する。その後被告芳陵平八郎など本説明担当者が同被告がどのようにして無一文から数拾億円の資産を築いたかを話し、これがピロビタンという会社を作ったことによるものであることを明らかにし、このピロビタンの商品紹介、ピロビタン・グループの組織構成、ピロビタン商法の有利な点などを説いた後、しかし将来はピロビタンの製造販売にとどまらず、スーパーチェーンを経営し、流通革命を起すことを企図していること、そのための集配所及びスーパー経営者を募集しているが、希望者にはまずピロビタンを販売することによってその資金を蓄積して貰うことなどを説明するが、出席者はその段階ではじめてこれがピロビタン営業所長募集のための説明会であることに気づく。そこで、やる気のない人は帰ってもよい旨何回かいうが、非常に魅力的な話であるために、商売替え等を考えている者は、もう少し詳しく聞きたいという気持にさせられる。その後、ピロビタングループの具体的な活動、営業所や既に出来ているスーパー経営の具体例、後記フードサービスカーの運行などこれまでの説明を裏付けるようなPR映画が上映され、休憩時間中にはピロビタンの広告パンフレットや被告芳陵平八郎が有名人と対談している新聞、雑誌が配られ、これを読んだ出席者は、同被告の話が単なる夢ではないと考えるようになる。同被告が出席しない説明会でも、被告会社または日本企業開発の従業員が被告芳陵平八郎と同様の内容の説明をしている。

(ハ) 個別勧誘

事業説明会が終わると、被告会社、日本企業開発の従業員及び右営業所長らは、出席者一人一人に会場で、または出席者の自宅を訪問して個別的に勧誘する。

そして、その個別的勧誘に際して説明する内容も、時期により若干の相違はあるが、ほぼ全国的に統一されたものであり、その代表的な説明の内容を総合すると次のようになる。

営業所契約を締結するには地域独占販売権を取得する対価、すなわち地区権利金(ロイヤリティ)として六万人人口の場合には四八〇万円(時期及び相手方によって若干の相違がある)を支払う必要があるが、人口五、〇〇〇人に一店の割合で一二の専売店を設置でき、各専売店からロイヤリティとして金三〇万円(その後金四〇万円)を取得できるから実際の出費は少なくてすむし、権利金以外の資金は不要である。営業所の利益としては、ピロビタンの販売利益として月当り、専売店一二店×日配五〇〇本×四円(一本あたりの営業所利益)×三〇日=七二万円(粗利益)、販売先の家庭に日用家庭用品を販売する利益として月当り約金二七万円、他に増本一本について金四〇〇円の割合で被告会社から営業所に支払われる増本奨励金、「その他の利益」(契約者を紹介した時に支払われる開発手数料のことであるが、それがわかるのは研修終了後である)があるが、経費は冷蔵庫程度で少なくてすむので、大きな利益をあげることができる。その利益を積み立てると数年後には小型スーパーであるコンビニエンス・ストアを設立することが出来る。専売店作りは会社がやってくれるので全く心配はいらないし、専売店一店あたり五〇〇本の販売量は、普通にやっていれば誰でも容易に達成できる。

おおよそ右のように具体的な数字をあげて説明し、更に同一地域に他の希望者がある。早い者勝ちだから仮契約だけでも急いだ方がよいなどと述べ、とにかく仮契約だけでもしておいてはどうかと勧める。そして、要望によっては、各地の営業所、ボトリング工場を見せたり、被告会社のある大阪府下のボトリング工場、営業所などを見学させて説明に相違がない旨相手を安心させる。

(ニ) 契約の締結

仮契約は殆どの場合大阪駅前第一ビル内の被告会社または日本企業開発で行なわれ、前記峰修または被告芳陵平八郎が担当する。その際、契約者は金五〇万円程度の手付金を支払うことになるが、その際被告会社と取交わす仮契約書には、第一条に甲(被告会社)はピロビタンの販売に関し乙(契約者)に対し特定の地域において営業所としての販売行為を約し、乙はこれを受諾したと記載され、第二条に第一条の販売地域権の設定に伴い、乙は甲に対し地区権利金○○円を支払うことを承諾し手付金として○○円を支払い甲はこれを受領したと記載され、第三条に第二条の手付金及びこの営業所仮契約書の有効期間は昭和○○年○月○日までとし、その期日迄に権利金の残額○○円を乙は甲に支払い本契約をすることとする。手付金の有効期日迄に残額を納金されない場合は手付流れとし、手付金の返還は一切ないものとし、この営業所仮契約書も自動的に消滅しこの効力はなくなるものとすると記載されている。

契約者は、手付金として金五〇万円位の大金を支払っているので有効期間として定められた一〇日後位までに大半が残金を支払って本契約をすることになる。その際に応待した者も峰修であった場合が多いが、残金を全額支払うまでは契約書は見せない。事前に契約書を見たいという者に対しては、以前ヤクルトなど他企業のスパイに見られて損害を受けたことがあるから契約金を全額支払ってからでなければ見せられないと拒否する。そして、原告らが残金全額を支払った後で、営業所契約書を持って来て契約者の署名捺印を求める。その際第二条、第三条に金額が記入されているが、それは地区権利金の金額を地域独占販売営業権の対価、開発に要した手数料、営業所育成費に分割した金額として記載してあり、この点に不審を抱いた契約者が問いただすと、税務対策上であって他意はない旨答え、他の契約条項の詳しい説明は研修所で行うから心配はないと述べて署名捺印を急がせるし、一緒に来ている契約者が残金を払うとすぐ署名捺印して出て行くので、何となくせかされた気持で契約者は署名捺印することになる。

また仮契約時、本契約時を問わず、被告会社の本社などで峰修の話を聞いている最中に儲かってしょうがない、同一地区を欲しいので今ここに来ているなどといった電話がかかって来ることが多く、契約するかどうかを迷っている者も急いで契約しようという気持にさせられる。

(5) ところが、前項の営業所契約者の募集勧誘にあたってされている説明内容には真実に反する点が少なくない。その主要な点を具体的に指摘すると次のとおりである。

(イ) 地域権利金の支払い以外にも多額の資金を必要とすること大多数の契約者は前記の説明を信じて権利金さえ支払えば足りるものと考え、無理をして金を作り他に資金が残っていない状態で契約をするのであるが、実際には営業所に次のような費用負担がかかる。

専売店を募集するため説明会を開催する費用として会場の借賃、新聞折込み広告代、被告会社及び日本企業開発から講師を呼ぶための旅費日当、映写機の借賃等一回の説明会について約金一五万ないし二五万円。営業所開設費用として店舗借賃、保冷車(約金四〇万円)及び営業所用冷蔵庫(約金二〇万円)の購入費など。増本活動(「引っ越し」そば作戦)で無償配布するサンプル、景品代。その他、ピロビタンの瓶代(一本金一一円五〇銭)、運搬費、宣伝広告負担金、人件費など。

この点については多くの場合研修で説明され、大部分の契約者は契約前の説明と全く違うことを知って愕然とするが、ごく少数の者を除き既に多額の契約金を支払っている以上、少しでもこの投下資本を回収するために専売店作りに専念するほかはないと考える。

(ロ) 専売店作り及び営業活動が極めて困難であること

各営業所長は、研修の際の指導に従って、一回あたり金一五万円から二五万円位の費用を投じて事業説明会を開催するが、なかなか専売店はできず、数回の説明会によっても一店もできない者が少なくなく、専売店のできた場合でも、その専売店を一年以上維持できた営業所は数少ない。しかも従前の説明と違い被告らが専売店を作ってくれることは全くなく、せいぜい有料で講師を派遣してくれる程度である。

また実際に営業を開始すると、ヤクルトとの競争があること、品質管理が悪く味が落ちるというような理由でピロビタンの売行きは悪く、増本活動で増本しても一、二か月ですぐ減本してしまい、一専売店あたり五〇〇本(人口の一割)の日配を達成することは至難であり、営業所単位では人口の数パーセント(三万人人口で日配一、〇〇〇本程度)の販売がせいぜいである。しかも、営業所の他の収入としてあげられていた日用家庭用品の販売などは不可能に近く、増本奨励金も専売店が増本した場合は営業所は受け取った金員をすべて専売店に渡すよう義務づけられているうえこれも、日配一、三〇〇本以上を二か月以上維持した場合にはじめて支払うという条件付のものであり、専売店が営業所に払う金三〇万ないし四〇万円のロイヤリティも、一部は解約時に返還することを要し、残余も紹介者への謝礼、専売店の研修費用などに費消され営業所の手元に殆ど残らない。

そのため、大部分の営業所は赤字経営を余儀なくされ、一、二年の営業で大きな赤字を累積して廃業に至るのである。

(ハ) 勧誘にあたって作為がなされていたこと

被告らは、日本企業開発及び開発手数料目当ての営業所長ら(その一部は契約者の開発を半ば業としていた)と相協力し一体となって、営業所契約者を勧誘するために様々な作為をしてきたが、そのうち主なものを指摘すると、次のとおりである。

事業説明会で上映されるPR映画は、営業所等ピロビタングループの現在の活動状況を撮影したものであるかのように説明されるが、実はモデルを使って撮影したものであり架空場面が多く出て来る。同説明会場で配布される新聞、雑誌に掲載された被告芳陵平八郎の有名人との対談記事は、被告らが作成した記事を売り込むという方法で登載されたものが殆どで、これらの中に出てくる全国のボトリング、営業所数、日配数、活動状況などは極めて誇大なものである。

また、被告らは、説明会、個別勧誘、契約締結を通じ、被告会社、日本企業開発の社員や契約ずみの営業所長などをサクラとして使い、現実とはかけ離れた収益をあげているように喋らせたり、契約者の希望地域と同一場所を希望しているかのように振舞わせ、契約者を錯覚させるような芝居をしたり、被告会社の直営店を一般営業所として見学させることもあった。

また契約勧誘の大きなセールス・ポイントの一つであったスーパー(コンビニエンス・ストア)やフードサービスカーは現実には昭和四六年以後は経営されていなかったが、吹田の被告会社の敷地内にフードサービスカー数台を駐車させて現実に各地で運行されているように装い、大阪市生野区林寺町のスーパー一号店の開業中(昭和四四年一一月から約一年間)は契約者にこれを見学させて、あたかも全国にスーパーチェーンが出来つつあるかのように印象づけようとした。

(ニ) 契約書の内容が説明と違っていたこと

被告らは契約金を全額支払うまで契約書を見せず、署名捺印の段階でも一般の契約書と変わりないかのように説明していたが、その条項にはいろいろ問題がある。

まず、第二条、第三条で地区権利金を独占販売営業権の対価、開発手数料、営業所育成費に三分していることについて峰修らは税務対策上であると説明していたが、実際に解約する段階になると被告会社は第一八条五項により返還の対象となるのは独占販売営業権の対価として受領した金額だけであると主張して地区権利金の五割にも満たない、しかも被告らが一方的に区分した金額しか返還しようとしない。

第八条では契約者は契約締結後三か月以内に営業所を設置し、販売を開始しなければ権利を放棄したものとみなして、その営業権は自動的に消滅するものとすると規定しているが、前記のように専売店作りが極めて困難であることに照らすとこの条項は過酷な内容を定めたものといえる。

第九条では販売到達責任量として営業開始後六か月以内に人口の二パーセント、一年以内に四パーセント、一年六か月以内に六パーセントと規定しているが、実情に照らし同じく過酷な内容といえる。

第一〇条では契約者は自己の営業地域内で要する宣伝費を負担するとあるが、テレビ、ラジオによる宣伝費として一か月金三万ないし四万円がこの規定によって負担させられる。

第一八条四項では契約者が契約書の各条項に違反せずに解約した場合でも被告会社の返還金は解約後一〇年間据置きで以後一〇年間で均等返還し利息は付さないという契約者にとっては極めて不利な内容が規定されている。実際には一〇年の据置は行っていないが、その場合でも被告らは右規定を緩和する恩恵的扱いであるかのように振舞うことになる。また、いざ解約した場合には、被告会社から契約書どおり履行していないから損害金を請求するといわれて、右金額すら容易に返還して貰えないのが実情である。

(二)  まとめ

このようなわけで、被告らが日本企業開発をはじめとする他のピロビタン関連企業と相協力して行なっていた営業所契約者の募集勧誘方法は、契約締結の意思決定に重要な影響を及ぼす事項について故意にこれを隠ぺいして開示告知せず、かえって虚偽の事実を真実であるかのようにしかも誇張して告知することによってピロビタンについて予備知識のない一般大衆を欺罔し、その結果営業所契約を締結させ、地区権利金名義で高額の金員を騙取したとするほかはない。

三  被告らの原告らに対する行為

(一)  原告山口一之について

前記争いのない事実や《証拠省略》を総合すると、次の事実を認めることができ(る。)《証拠判断省略》

(1) 同原告は、昭和四七年四月初めころ、たまたま妻の知人がピロビタン営業所の開設費用を借りに来たことから、借主の新事業の確実性を調査するため、被告会社熊本出張所を訪ね、同出張所次長沢田某からフランチャイズ制の説明や、大阪や東京の営業所などの例からピロビタン営業所経営がいかに儲かるかの説明を受けた。そこで同原告は同月一七日、場合によっては自分も経営をしてみようという気持で仮契約金五〇万円を持って日本企業開発主催の事業説明会会場である熊本ニュースカイホテルに出かけ、受付で要求されるまま説明会出席者芳名表に住所、氏名、用意できる資金額等を記入して会場に入場した。会場には、「企業が確実に儲かる一六のポイント」や「経営者必須条件」と書いた大きな紙が貼られてあり、熊本日々新聞やテレビ会社の花輪が飾られていた。説明会が始まると、まず日本企業開発次長の訴外松下梅次郎が経済情勢一般、将来に向かって中小企業はどうすればいいか等の話をし、次に被告芳陵平八郎が、自分は熊本出身者である旨自己紹介した後、フランチャイズシステムによれば、二、三〇〇万円の金で大企業に立ち向かうことが出来るんだ、コンビニエンス・ストアは中間マージンを省いた注文販売のことだが、ピロビタン販売は弾丸であって将来はコンビニエンス・ストアに発展させるのが真の目的であるなどと言葉巧みに講演した。その後の休憩時間中に同被告が著名知識人と対談している週刊誌、新聞が配布された後、前記PR映画が映写され、次に前記沢田某がピロビタン販売による利益計算を説明した。それによると、ロイヤリティ(地域権利金)を金二六五万円入れることによって三万人人口の地域独占営業権を被告会社から与えられ、六つの専売店を作ることが出来る。一専売店あたり一日一、〇〇〇本の売上げ(この販売数の達成は容易である)があるとして、営業所に入る一か月当りの利益は、一本四円×六、〇〇〇本×三〇日=七二万円であるというのである。最後に、熊本市内の営業所長らが、非常に儲けさしていただいておりますと挨拶して説明会が終った。

(2) 右説明会でその説明内容をすっかり信じ込んだ同原告は、右沢田某から競争率が激しいので仮契約を急ぐよう言われると、その足で同ホテルの別室で、被告芳陵平八郎同席のもとに、右松下梅次郎と仮契約を締結し、契約手付金五〇万円を同訴外人に交付した。仮契約書には、一五日以内に本契約をしないと手付流れになる旨記載されていたが、その場では、同訴外人から領収書代りだとの説明を受けただけであった。

(3) 同原告は、同年五月二日、大阪駅前第一ビル内の日本企業開発で峰修に対し契約残金二一五万円を渡し、その後同訴外人から同原告の署名、捺印欄以外は既に記入された被告会社との間の営業所契約書が示され、その署名捺印を求められた。その方法は、同訴外人が契約書の最後の頁を開き同原告に署名捺印させ、次に割印を順次、機械的に押させるというもので、峰修が契約内容の説明をしなかったばかりか、最初に同原告が契約書を読もうとした際にも、これはありきたりの内容の契約書ですからと申し向けるなど、同原告に契約書の内容を読ませないように仕向けた。また、同原告は、契約書の第二条に地域の独占販売営業権を受けるための対価として金一一〇万円、第三条に開発手数料として金八八万五、〇〇〇円、営業所育成費として金六六万五、〇〇〇円と記載され、契約金が三分されているのを不審に思って尋ねたところ、峰修は税務対策であって他意はない旨答えた。

(4) 同原告は本契約を締結した翌日から研修所に入り、一週間の研修を受けた。その研修の講義内容はピロビタングループのシステム、製品知識、販売方法、専売店の募集方法などであった。同原告は、沢田某に説明を受けたり事業説明会で聞いた話とは相当違う点があることに驚いた。それは次の点である。

それまでの話では権利金以外は一切資金は不要ということであったので、営業所の借賃、保冷車(金五、六〇万円)、冷蔵庫(金三〇万円)の購入費、ピロビタンの瓶代等がかかるうえ、増本活動(引っ越しそば作戦)で各戸に無償配布するピロビタン代も営業所の負担であり、専売店を開発するための説明会の費用が一回最低金一五万円もかかることである。

(5) しかし、同原告は契約金として既に金二六五万円も支払っているし、また一生懸命やれば何とか営業できるものと考え、早速九州に帰って営業準備にかかろうとしたが、契約の際にはあいていない筈であった熊本市の大江地区があいていることがわかった。そこで、同原告は、被告会社熊本出張所と交渉して同地区に営業地域を変更させたうえ、専売店の開発にとりかかった。しかし、同原告は、昭和四七年五月から同年八月にかけ合計金七五万円の費用をかけて五回説明会を開いたにもかかわらず専売店は一軒も出来ず、同年九月、知人の紹介でようやく一軒の専売店を確保したが、これも営業不振により約三か月でやめられてしまい、その後もう一軒専売店を作ったものの同様にして約三か月でやめられてしまった。同原告は、結局、営業期間の大部分はコンパニオンを雇い自らピロビタン販売にあたった。

このようなわけで、同原告のその営業成績は、最高日配七〇〇ないし八〇〇本どまりで、経費はかりがかさみ赤字が累積する一方であったところ、昭和四九年一月ころ、ピロビタン九州支社(熊本出張所の後身)に呼びつけられ、日配一、五〇〇本の販売をする旨の誓約書を書かされ、更にその後、一、五〇〇本に到達しない本数について一本金二、〇〇〇円の損害金を請求する旨通告されるに及んで、ついに、同年三月廃業のやむなきに至った。

(二)  他の原告らについて

前記争いのない事実に前掲各証拠を総合すると、他の原告らに対する被告らの不法行為についての具体的な状況も、別表(三)記載の他は、前記二(一)の被告らの一般的欺罔パターン及び三(一)の原告山口一之についての認定事実と同様の事実が認められ(る。)《証拠判断省略》

四  被告らの責任原因についての判断

(一)  前項で認定した各事実を前記二(一)(二)で認定判断した事実に照らして考えると、原告ら(原告板井敏子、同宮崎雅尚については後記のとおりさらに検討する)がそれぞれ営業所契約を締結したのは、いずれも、被告芳陵平八郎、峰修を中心とする被告会社、日本企業開発の役員幹部が企画立案し被告芳陵平八郎、峰修が自らないし従業員や既に契約ずみのボトリング経営者、営業所長らと相協力し、共謀の上行なった詐欺行為というべき営業所契約者の募集、勧誘によって欺罔されたためであるといわなければならない。

(二)  原告板井敏子については、別表(三)の原告欄で認定した事実によると、同原告は他の原告同様に被告らによって欺罔され仮契約を締結し金四〇万円を支払ったが、本契約の締結及び契約残金の支払いは被告会社による研修を受け終わった後にした。したがって、同原告には、その時点では実情が説明会等の従来の説明と相当異なっていることを認識していたといえるから、同原告が他の原告同様被告らの欺罔行為によって本契約を締結したとするには若干問題である。

しかし、前記二、三の認定事実や《証拠省略》によると次の事実が認められ、この認定に反する証拠はない。

同原告が既に被告会社に交付していた金四〇万円は契約書では契約手付金として同原告が解約すれば没収される約定になっていた。

研修会の説明も主として契約金以外の営業資金の必要についてであって、被告らは専売店作りが極めて困難で現実には利益が生ずるような状態にないこと、従来の営業所経営者がほとんど損をしていること等重要なことは隠した。

そこで同原告は、研修を受け終わった時点でも、被告らの説明を全面的に疑う気持にはなれず、右手付金を没収されるくらいなら開業して出資金を取り戻そうと考えた。

右認定事実によると、同原告は、本契約締結及び契約残金支払時でも被告らに欺罔されたままであったとすることができる。

(三)  次に原告宮崎雅尚について検討する。

同原告が被告会社と営業所契約を締結するに至った経緯は別表(三)の同原告欄で認定したとおりであり、他の原告らと変わるところはない。

《証拠省略》によると、次の事実が認められ、他にこの認定に反する証拠はない。

(1) 同原告は、昭和四八年一月、天草地区(三万人人口地域)に営業所を開設し、専売店を六、七店設けた他、営業所としても配達員を二名置いて自らピロビタンの販売にあたったが、日配二、〇〇〇本から六、〇〇〇本くらいに伸び、同年春には天草下島地区(二万五、〇〇〇人人口地域)、同年夏には荒尾地区に営業地域を拡大し、最終的には全地区の日配合計が約九、〇〇〇本を数えたこともあった。

(2) 同原告が、昭和四九年三月に営業活動をやめるまでの間の推計荒利益の合計は、約金九〇〇万円にのぼった。しかし、一方では人件費などの営業経費が非常に嵩んだうえ設備投資、営業地域の拡大などの費用を借財に頼ったためその返済に追われ、経営はほとんどの期間赤字を続け廃業時には金一〇〇〇万円の借金が残る結果となった。

(3) 同原告が、前記のように借財をしてまで営業拡大をしたのは、もっぱら営業成績(販売本数)のよい営業所に被告会社がコンビニエンス・ストアを作ってくれるものと信じ込み、将来のコンビニエンス・ストア建設のための地域を確保するためであった。そして同原告は、被告らにはコンビニエンス・ストア建設の計画のないことを知って廃業した。

以上の認定事実からすると、同原告も、被告らに欺罔された結果、営業所契約を締結し営業活動をすることによって、損害を被ったものというべきである。もっとも、同原告は営業開始後も営業地域を拡大し相当な販売本数をあげていたものであるが、それは実在しないコンビニエンス・ストアの話を信じ、その建設地域を確保しようとしたため人件費や設備費などに多額の経費を投資し、さらに自らの懸命の努力によってやっと相当の数量の本数を販売していたにすぎず、経営の実態は赤字続きであったのである。そうすると、同原告の企業努力を目して、同原告は被告らによって欺罔されたものではないとか、被告らの不法行為を宥恕したとか、損害賠償請求権を放棄したとするわけにはいかない。

(四)  そうすると、被告会社は被告会社ないし日本企業開発の従業員、営業所長等の欺罔行為のうち被告芳陵平八郎の行為について民法四四条一項により、それ以外の者の行為について同法七一五条一項により、被告芳陵平八郎は直接の不法行為者として同法七〇九条により峰修をはじめとする被告会社、日本企業開発の従業員、更には営業所長らを直接指揮監督した行為について民法七一五条三項により原告らが営業所契約を締結したことに関連して被った損害を連帯(不真正連帯)して賠償する義務があることに帰着する。

五  損害についての判断

(一)  権利金支払いによる損害

(1) 原告ら(原告佐伯金雄同竹口稔を除く)が被告会社に対し別表(二)の権利金支払いによる損害欄記載のとおりの地区権利金を支払ったことは当事者間に争いがない。

また原告佐伯金雄の本人尋問の結果(甲事件)によると、被告会社は同原告から地区権利金として金三〇〇万円を受領し、そのうちから訴外横田真秀に開発手数料として金七五万円を支払った(但し、形式上、領収書は横田が発行)こと、したがって同原告が被告会社に支払った権利金の金額は金三〇〇万円であることが認められ(る。)《証拠判断省略》。

(2) 前記認定事実によると、原告らは、四名(番号11、16、17、18)を除き一定期間営業を行なってはいるが、原告らは、いずれも既に大金を支払っている以上、開業して少しでも投下資本の回収をはかろうとして営業を始めたにすぎず、その営業に要した諸経費が大きかったため右投下資本の一部でも回収できるほどの収益をあげた者はいなかったのであるから、開業の有無を問わず原告らは権利金として支払った金員相当額(後記原告竹口稔の約束手形による支払分金六〇万円及び原告佐伯金雄が被告会社らから返還を受けた二七五万円を除く)の損害を被ったといわなければならない。

(3) 前記別表(三)で認定した事実によると原告竹口稔は右支払金員のうち金六〇万円を約束手形で支払ったが、同手形は不渡りになって決済されておらないから、同原告には、同手形交付による損害の発生がなかったわけである。

(4) また前記(1)のとおり原告佐伯金雄は、権利金として被告会社に金三〇〇万円を支払ったが、被告会社から後記のとおり金二〇〇万円の返還を受けた(同金員は同原告の本件請求から控除済みである)他、前記別表(三)で認定のとおり、開発手数料として右権利金の内金七五万円を受領した横田真秀から同金額の返還を受けているのであるから、この金額も損害額から控除しなければならない。

(5) 以上により、原告らの権利金支払いによる損害額は別表(一)の権利金支払いによる損害欄記載のとおりである。

(二)  慰藉料

別表(三)で認定のとおり、原告らのうち、原告田縁保二、同南野初市、同鹿田豊弘、同松本勝帰の四名は、営業を開始するに至らなかったが、その余の原告らは営業資金や労力を投入したが不成功に終ったものである。そうすると、原告田縁保二ら四名は営業継続による損害の拡大は見られないうえ、同原告らにも契約締結に際し被告らのうますぎる話をうのみにした点に不注意があったことを考慮すると、法律上慰藉すべき精神的苦痛があったとすることは出来ないが、右四名の原告を除くその余の原告らについては、本件に顕われた諸般の事情を斟酌し、その精神的苦痛を慰藉するには各金五〇万円が相当である。

(三)  弁護士費用

原告らが原告ら訴訟代理人に本件訴訟の訴訟委任をしたことは当裁判所に顕著な事実である。そこで原告らが、被告らに対し求めることのできる弁護士費用の損害は、それぞれ右(一)、(二)の合計額の一割に相当する別表(一)の弁護士費用欄のとおりである。

六  結論

そうすると被告らは各自、原告らに対し、別表(一)認容損害合計額欄記載のとおりの各金員と、これに対する不法行為の日以後の日(各訴状送達の日の翌日)である同表の遅延損害金起算日欄記載の日から各支払いずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払う義務があるから、右原告らの本件請求はこの範囲で正当であり、これを超える部分は失当として棄却しなければならない。

第二乙事件についての判断

一  売掛代金についての判断

甲事件で認定した事実や《証拠省略》によると、被告会社は原告板井敏子、同宮崎雅尚に対し継続的にピロビタンを売り渡し、その売掛残代金が前者に対しては金一一万二、八一四円、後者に対しては金五六〇万九、三〇〇円であることが認められ、この認定に反する証拠はない。

二  宣伝広告費についての判断

《証拠省略》によると、同原告は被告会社に対し金六万円の宣伝広告費を負担していることが認められ、この認定に反する証拠はない。

本件に顕われた証拠を仔細に検討しても、原告山口一之、同宮崎雅尚が被告会社主張の宣伝広告費を負担したことが認められる的確な証拠はない。

三  増本奨励金についての判断

《証拠省略》によると同原告は被告会社から合計金一八〇万円の増本奨励金の交付を受けたことが認められるが、本件に顕われた証拠を仔細に検討しても被告会社主張のような返還約束ないしは契約違反があったことが認められる証拠はない。

四  開発手数料についての判断

(一)  《証拠省略》によると、被告会社から開発手数料として原告山口一之は金六六万五、〇〇〇円、同板井敏子は金一一七万五、〇〇〇円をそれぞれ受領したことが認められ、この認定に反する証拠はない。

被告会社は、原告両名がピロビタンの販売活動を放棄し、その他前記営業所契約や商品売買基本契約に違反したときは開発手数料を被告会社に返還する約定があったし、仮にそのような約定がなかったとしても、開発手数料の性質から、原告両名に右のような義務違反があれば当然返還すべきであり、原告両名はピロビタンの営業活動を放棄し、原告板井敏子は製品代金の支払いを遅滞したから原告両名が受領した前記金員を返還すべきであると主張する。

(二)  そして甲事件で認定した事実及び《証拠省略》によると、原告山口一之は昭和四九年三月ころ、原告板井敏子は同年二月ころ営業所活動を停止したところ、被告会社から同年六月七日到達の書面により営業所契約を解除する旨通知を受けたことが認められ、この認定に反する証拠はない。

しかし、甲事件で認定したとおり、原告両名が営業を停止した理由は、もともと被告らのピロビタン商法に無理があったことにあり、原告両名には開発手数料の返還を必要とする程の義務違反がないから、たとえ被告会社主張のような返還約束があり、開発手数料がその主張のような性質のものであるとしても、被告会社には返還請求権が生じていないものとしなければならない。

五  原告宮崎雅尚、同板井敏子、同山口一之の抗弁についての判断

同原告らが主張するとおり営業所契約ないし売買基本契約が公序良俗に反して無効であるとしても、被告会社と同原告らとの間のピロビタンの個々の売買契約や広告宣伝費負担に関する約定を直ちに無効とするわけにはいかない。もし、個々の売買契約まで無効にしてしまうと、同原告らは、被告会社から受け取ったピロビタンを他に販売してしまっているのに、その代金の支払いを免れるという不合理な結果を是認することになる。

そして、本件に顕われた証拠を仔細に検討しても、被告会社の同原告らに対する売買代金や費用の請求が権利の濫用にあたることが認められる証拠はない。そこで同原告らの抗弁を採用することはできない。

六  結論

以上の次第で、被告会社に対し、原告板井敏子は売掛残金一一万二、八一四円、広告宣伝負担金六万円合計金一七万二、八一四円、同宮崎雅尚は売掛残代金五六〇万九、三〇〇円と、これらに対する本件営業所契約解除の日の後である昭和四九年六月八日から各支払いずみまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金を支払わなければならないから、被告会社の請求はこの範囲で理由があり、その余の請求と原告山口一之に対する請求は失当である。

第三丙事件についての判断

一  被告会社は原告佐伯金雄との間で昭和四七年八月一〇日、前記営業所契約を締結したこと、同原告は昭和四八年八月ころ営業を停止し、被告会社で再三にわたり契約金全額金三〇〇万円の返還を請求したこと、同原告は同年一〇月二三日、被告会社から金二〇〇万円を受領したこと、同原告は金二〇〇万円受領後も被告会社に残額金一〇〇万円の支払いを請求し、ピロビタンは詐欺的企業である旨他の営業所契約者に話したこと、国会議員等に救済を訴えたこと、以上のことは当事者間に争いがない。そして甲事件の認定事実によると、同原告は右営業所契約締結に際して、被告会社に対し契約金として金三〇〇万円を支払ったものである。

二(一)  被告会社は、右契約金のうち金一二五万円だけが保証金であって契約が解除された場合、同原告に被告会社から返還される約定であったが、被告会社の名誉や信用を傷つけたりしないことなど被告会社主張の条件を同原告に守ることを約束させ、右条件を守らなければ受領金を被告会社に返還させる約定で、特に金二〇〇万円を示談金として同原告に支払った。しかし同原告は右条件に違反した旨主張するので、この点について判断する。

前記争いのない事実や甲事件での認定事実、《証拠省略》によると次の事実が認められ(る。)《証拠判断省略》

(1) 同原告は、昭和四七年八月被告会社と営業所契約を締結し、契約金三〇〇万円を被告会社に支払った。峰修はこのうちから金七五万円を前記のとおり横田真秀に紹介料として支払い、残金を、契約書上では三分して独占営業権の対価、開発手数料、育成費に書き分けたが、これは税務対策であって他意はない旨同原告に説明した。また契約締結前の被告会社側の話では、契約金とは地区権利金もしくは保証金であり、その実態は一定地域の独占販売権の対価ということであった。

(2) 同原告が営業活動を開始してみると、その営業地域である熊本市の田崎地区は訴外小堀宗芳の営業地域と一部競合していることが判明したので、被告会社九州支社にその調整を申し入れたが、被告会社はこれに応じなかった。また被告会社の事前の説明では、ピロビタンは熊本県では初めてであるということであったが、同原告の前にも営業所を経営した者がいてそれが失敗に終っていたことが判明した。

(3) また被告会社の契約前の説明では専売店はすぐに出来るということであったが、それがなかなか出来ず、やっと一軒だけ確保できたものの、出費が嵩むばかりで赤字続きであった。峰修は契約締結の際何事によらず相談に来るように言っていたので、同原告は被告会社九州支社にその対策について相談に行ったが取り合ってくれなかった。

(4) そこで同原告は、仕方なく昭和四八年八月営業を停止し被告会社に解約を申し入れ契約金の返還を執拗に迫ったところ、峰修はやっと同年一〇月二三日ころ、日本企業開発の本社で「これに判を押してくれれば会社にも落度があるから二〇〇万円だけは返す」と述べて「契約解約願い」と題する書面と念書に署名捺印を求めた。右念書には、今後一切金員を要求しないこと、解約後は看板、自動車等からピロビタンの文字を消し、ピロビタンの名前を使用しないこと、製品代金等の残債務があれば被告会社の請求があり次第支払うこと、被告会社の名誉、信用を傷つけないこと、同原告らがこれらの約定に違反すれば返還金の支払いが停止され、損害賠償を請求されても異議がない旨記載されていた。

(5) 同原告は右念書の記載内容には承服できなかったが、それに署名押印しなければ金二〇〇万円の返還が受けられないので、不本意ながらこれに応じて署名押印のうえ、被告会社から金二〇〇万円の返還を受けた。

(6) しかし同原告は残額金一〇〇万円の返還を受けていなかったことを不満に思いそれを取り戻すため、被告会社や前記横田真秀に請求するとともに被告会社のやり方をそのまま許す気持になれなかったので、公明党の黒柳国会議員や公正取引委員会に実情を訴えたり、他のピロビタンの営業所長にピロビタンは詐欺的企業であると話したこともあった。

(二)  以上認定の事実によると、同原告が差し入れた金三〇〇万円全額が地区権利金ないし保証金であるというべきであり、解約になれば被告会社は全額を返還しなければならないし、また同原告の解約の申入れはやむを得ないものというべきである。しかるに被告会社は、返還を受ける者の弱い立場につけ入り、返還金額を金二〇〇万円に減額させたばかりか、さらに同原告に対し右金員の支払いと引換えに前記念書に署名捺印を迫ったので同原告はやむを得ずその意に反してこれに応じたのであるから、念書の記載内容について合意が成立したものとすることはできない。仮に右の点について合意があったとしても、同原告は黒柳議員や公正取引委員会にピロビタンの実情を訴えたり、他の営業所長にピロビタンは詐欺的企業であると話したことおよび被告会社に金員を要求したこと以外、右念書の記載内容に違反した言動をしたことを認めるに足りる証拠はない。そして黒柳議員らにピロビタンの実情を、訴えたことがただちに被告会社の名誉や信用を傷つけたことにならないし、他にこれが名誉毀損等にあたることについての主張、立証がない。そして右詐欺的企業云々と金員の要求については、甲事件で認定した被告会社の営業所勧誘方法はまさに詐欺的行為にあたると評すべきであり、それによって多額の金員を騙し取られたともいうべき同原告や他の営業所長の立場を考えると、このような発言はやむを得ないものというべきであり、また契約金の残金の請求は甲事件で認定したとおり当然の権利行使である。そうすると、被告会社は、返還を請求することはできないとしなければならない。さらに前記のとおり念書記載の約定に違反したときは「……返還金の支払いを停止されてもやむを得ない」旨の記載があるが、被告会社がすでに支払った金員についてまでその返還を請求しうることについての記載を欠いているから、この点からしても、被告会社の金員の返還請求はその根拠を欠くものといわなければならない。

以上いずれの点からしても、被告会社のこの点についての主張は理由がなく、本件請求は失当である。

第四むすび

甲事件について、被告らは各自原告らに対し、別表(一)の請求認容額一覧表記載の各金員と、これらに対する同表の遅延損害金起算日欄の日から各支払いずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払い義務があるから、原告らの請求をこの範囲で正当として認容し、これを超える部分を失当として棄却する。

乙事件について、被告会社に対し、原告板井敏子は金一七万二、八一四円、同宮崎雅尚は金五六〇万九、三〇〇円とこれに対する昭和四九年六月八日から支払いずみまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払い義務があるから、被告会社の請求をこの範囲で正当として認容し、これを超える部分と原告山口一之に対する請求を棄却する。

丙事件について、被告会社の請求を失当として棄却する。

そこで民訴法八九条、九二条、九三条、一九六条(乙、丙事件について、仮執行を付すのは相当でないから却下する)に従い主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 古崎慶長 裁判官 小野洋一 裁判官下村浩蔵は転補のため署名押印することが出来ない。裁判長裁判官 古崎慶長)

<以下省略>

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